オンライン:東京大学 教授(日本火災学会) 廣井悠さん
西村)元日の能登半島地震では、輪島朝市で大規模な火災が発生し、約250軒が焼失しました。大きな被害が出た原因はどこにあるのか。地震や津波で火災が発生したとき、どう対応すればよいのか。
きょうは、輪島朝市の火災現場を調査した東京大学 教授 廣井悠さんにお話を伺います。
廣井)よろしくお願いいたします。
西村)震災前は多くの観光客が訪れて賑わっていた輪島朝市。地震後の火災で250件も焼失してしまいました。輪島朝市の出火原因は何だと思いますか。
廣井)出火原因は、詳しくわかっていません。総務省消防庁の消防研究センターが調べていますが、電気が原因である可能性が高いとのことです。近年の地震火災の約半分が電気によるものです。電気器具の転倒による出火、配線の損傷による出火などさまざまな原因がありますが、厳密には不明です。
西村)なぜこんなに被害が広がったのでしょうか。
廣井)2つ理由があると思います。1つは燃えやすい市街地だったということ。輪島朝市通り付近は木造の建物が密集していました。木造密集市街地は、火災が起きると非常に燃え移りやすくなります。
西村)木造の建物の中には、住宅兼店舗もあったのですか。
廣井)住宅や店舗、小さな工場兼住宅もあったと思います。
西村)火災が起こった当時、そこに住んでいた人もいたのですね。
廣井)2つ目の原因は、地震や津波の影響。大きな地震が起きると、建物自体が燃えやすくなります。大きく揺れると建物の外壁が剥がれて防火性能を失ってしまいます。瓦がずれるとヒビが入りやすくなります。窓が壊れると火の粉が入りやすくなります。地震の揺れによって、木造密集市街地が建物倒壊によってさらに燃えやすくなった可能性があります。もう1つは、消火活動が困難だったこと。地震によって、水道管が壊れると、消火栓から取水することができません。電柱が地震の揺れで倒れて邪魔をしてしまって、数少ない防火水槽からも取水できなかった事例もあります。消防が消火栓と防火水槽から取水できなかったことが大きな原因。さらに津波の影響もあります。輪島朝市通りは、津波浸水が懸念される地域でした。当時、大津波警報が出ていて危険で、海水を取水することができなかった。消火栓も防火水槽も海水も使えない状況でした。隆起の影響で川の水位が低下して川の水を使うことも困難でした。避難を優先して、初期消火や早期の火災の覚知もできていなかったと思われます。燃えやすい市街地だった上に、地震や津波の影響、消火活動や火災の覚知が難しかったことが原因だと思います。
西村)大津波警報が出たら一目散に逃げないといけませんよね。被災者は避難時のようすについて、どのように話していましたか。
廣井)多くの人がすでに逃げていたということです。大津波警報が出たら、津波の危険性がある場所にいる人は逃げないといけないので、仕方ないと思います。津波警報の影響で、初期消火や火災の覚知ができなかったのは仕方がないことです。そのような場所の火災の防災対策について、課題が浮き彫りとなりました。
西村)どうしていったら良いと思いますか。
廣井)津波の影響があるころと津波の影響が少ないところで切り分ける必要があると思います。輪島の朝市通り付近の火災が教えてくれたことは、津波・火災・地震のリスクがある場所の防災の難しさ。地震が起きると鎮火対応が難しいので、5ヘクタールくらいはすぐに燃える火災が起こり得るのです。きちんと初期消火をしなければならないと思います。
西村)でも逃げながら初期消火することは難しいですよね。
廣井)そうですね。津波が来るところと津波の来ないところは切り分けて考える必要があります。
西村)能登半島地震の輪島朝市の火災は、みなさんがすぐに逃げてしまったから、消防への通報もできなかったということですか。
廣井)その可能性はあります。
西村)阪神・淡路大震災のときは、長田の町が火災で大きな被害を受け、東日本大震災でも津波火災がたくさん発生しました。今後、首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きたら、地震火災や津波火災が起こる可能性はありますか。
廣井)はい。地震時にも火災が起きるということを認識することが重要です。
西村)地震火災が起こると家の中はどのように燃えて、どのような被害が出るのでしょうか。
廣井)火災が起きた場合、わたしたちが消すことができる時間は非常に短いです。個人が消火器などで火を消すときは、自分の背の高さや天井に着火するまでの時間しか対応できません。極めて短い時間の中で、消化対応をしなければなりません。大きな揺れが起きた後は、部屋の中はぐちゃぐちゃで、可燃物と火源が接触しやすい状態。そんな中ですぐに火災を見つけなければ対応が難しくなります。
西村)火が出やすい場所はどんなところですか。
廣井)台所や暖房器具を使っている部屋は火が出やすいと思います。
西村)「鍋を火にかけていたら火を止める」「逃げる前に元栓を閉めるな」どの確認が大切ですね。
廣井)難しいかもしれませんが、緊急時速報が鳴ったらすぐに火を消すことは重要ですね。揺れているときに火を消そうとすると火傷してしまう可能性もあるので、まずは身の安全を確保して、ある程度揺れが収まったら、火の元を確認しましょう。
西村)初期消火はどのようにすれば良いですか。
廣井)まずは火災を見つけることが重要。自宅だけではなく、町内会や自主防災組織と手分けして、火災を見つける。火災が見つかったら、大声で知らせる。1人でできることには限りがあるので、火災対応は周りの人みんなで対応することが必要です。
西村)津波がすぐくる地域なら、一目散に逃げないといけないので難しそうですね...。
廣井)命を守ることが一番重要。津波のリスクも火災のリスクもある海沿いの木造密集市街地は、直後の対応は難しいので、感震ブレーカーを設置したり、火災に強い街の構造にしたりという事前対策は有効だと思います。事前対策ぐらいしかやることはないと思います。津波が来る場所は、津波から命を守ることを優先。一方で、津波のリスクがない場所では、初期消火ができるので、事前にいざというときに動ける組織を作っておくことが重要。津波のリスクによって、対応が違うことが改めてわかりました。
西村)大事なポイントがわかったのですね。火災からの逃げ方のポイントはありますか。
廣井)まず大きな公園などの広い場所に逃げる。風上の広い場所に、広い道路を使って、延焼している場所を避けて逃げてください。木造密集市街地の建物の中にいた場合は、まず広い道路に逃げる。火災で怖いのは、火災の同時多発です。関東大震災のときは、火に囲まれて、逃げる場所を失った人がたくさん亡くなりました。都市部では、できるだけ広い道路に逃げて、広い場所に行く逃げ方が良いとされています。ぜひ知っておいてください。
西村)大切な逃げ方を教えていただきました。
きょうは、地震火災について、東京大学 教授 廣井悠さんにお話を伺いました。