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『伝えるとは‥ 加藤アナ 〜バルツァ・ゴーデルの巻〜』
気持ちいい秋晴れの日、奈良市にある重症心身障害児施設「バルツァ・ゴーデル」に関岡アナウンサーとお出かけしてきました。施設までは近鉄奈良駅からタクシーで向かったのですが、奈良公園の鹿も親子で気持ちよさそうにお散歩していました。
訪問先の「バルツァ・ゴーデル」は平成13年10月開所の病院兼福祉施設。重い知的障害と肢体不自由があり医療的なケアが必要な人が入所されています(4歳から62歳の69人)。「バルツァ・ゴーデル」の名前はスウェーデンにある痴呆性老人グループホーム「バルツァ・ゴーデン」に由来します。この老人グループホームは「人の残っている能力をいかに引き出すか」という取り組みで入所者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めている所で、それにならい「個々の能力を生かしつつ豊かな生活が送れるように」との思いから「バルツァ・ゴーデル」と名づけられたのだそうです。
施設に到着後、早速朗読開始です。「バルツァ・ゴーデル」では障害が重く常に医療が必要な人たちと、自分で動き回れる人たちの2グループに分かれ病棟も別になっていますが、まずは重い障害の人たちのグループ23人に朗読。私は『すっとんだちょうべい』(作:ひがしおあやこさん/ひかりのくに)を朗読しましたが、可動式ベッドに寝たままの人が多いので、なるべく絵が見えるように本を左右に動かしながら、いつもよりもゆっくりとしたペースで読むようにしました。
反応はいつもおでかけしている小学校や幼稚園などとは違います。声が出ることは、ほとんどなく静か。少し勝手が違います。でも「何か感じてほしいな。届いているかな?」と考えながら朗読を続けました。そのうち、目を閉じて聞いていた人がふっとまぶたを開けてくれたり、手をたたいてくれる人が出てきたりしました。読み手は聞き手の反応を確かめながら読むところがあります。僕は、そうすることで「伝えたい」という読み手の気持ちが届くと信じているのですが、今回の朗読では、いつも以上にそのことを意識することになりました。 後半の朗読は車椅子や自分の足で移動できる「元気グループ」42人が対象。ここでは「あしにょきにょき」(作:深見春夫/岩崎書店)という作品を朗読しました。不思議な豆を食べたおじさんの足がにょきにょき、にょきにょき伸びていく、挿し絵がとっても面白いお話です。絵をじっくり見てもらおうと、ここでもゆっくり朗読。笑い声が出たり、手をたたいてくれたり、じっと見つめてくれたり、僕や関岡さんの周りを歩いてくれたり。思い思いの聞き方で楽しんでくれました。
朗読終了後、施設の方が「生の朗読は、テープやラジオから聞く朗読とは反応が違う。声の響きが聴く人の体に伝わっていることも関係しているのでは」とおっしゃいました。日頃、僕らは「言葉で情報を伝える」と考えがちですが、顔の表情や声の響き、空気の振動など「伝える」手段は様々なのだということを改めて感じることになった「おでかけ朗読」でした。
【その他の朗読作品】
・「まほうの夏」「雪のかえりみち」
(作:藤原一枝/岩崎書店 ともに関岡アナが朗読)
・「ともだちや」(作:内田麟太郎/偕成社 2人で朗読)
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