第1438回「創作絵本で防災を伝える」
ゲスト:絵本アニメクリエイター twotwotwo(ににに)あしださん、ござさん

西村)神戸市にある「人と防災未来センター」の"防災100年本プロジェクト"は、創作絵本で災害の語り継ぎと防災・減災を伝える取り組みです。今年3月、このプロジェクトから最初のオリジナル絵本3冊が完成しました。
きょうは、その中の1冊「ぼうさいバッグのちいさなポケット」の作者で、絵本アニメクリエイターtwotwotwo(ににに)のあしださんとござさんに来ていただきました。
 
あしだ・ござ)よろしくお願いいたします。
 
西村)ユニット名は、twotwotwoと書いて(ににに)と読むのですね。
 
あしだ)ちょっと変ですよね。変な名前だなって自分でも思っています(笑)。2人組の「に」、笑顔の「に」、2倍の「に」という意味です。
 
西村)笑顔は"にっこり"の「に」ということですね。
 
あしだ)笑顔が増えたら楽しいなと思って。
 
西村)まさに「ぼうさいバッグのちいさなポケット」も笑顔になる絵本でした。
 
あしだ・ござ)そう言っていただけてめちゃくちゃうれしいです!
 
西村)この絵本について紹介します。イラストがカラフルですごくかわしらしくて、表紙から惹きつけられました。主人公の男の子、まーくんと一緒に暮らすワンちゃんのペロちゃんが、懐中電灯で部屋の中をのぞくシーンからはじまります。どんな部屋なのでしょうか。作者の2人の前で読むのは緊張しますが、絵本を読んでみます。
 
「ぼうさいバッグのちいさなポケット」
さく twotwotwo
 
にちようびのあさ
ぼくのうちには ときどき
おもい にもつが とどく。
 
「よいしょ!」
おとうちゃんは その にもつをもって
そうこにいく。
そして しばらく でてこない。
 
......やっぱり なにか ひみつがあるんだ。
きょうは ぼくも こっそり ついていった。
 
そうこの いりぐちから
そっと のぞいてみると
このまえ たんけんしたときには
みつけられなかった たくさんのものが
きれいに ならんでいた。
 
「おとうちゃん なにしてるの?」
「うちの そなえを
チェックしているんだよ」
「そなえ?」

 
西村)今朗読した冒頭部分にあったように、主人公のまーくんの家には秘密の倉庫があります。犬のペロとこっそり覗いてみると、いろんなものが並んでいます。お父さんに聞いてみると、「災害が起こったときの備えをしている」とのこと。後に備えを入れておくリュックも登場します。「リュックには何を入れたらいいのかな」まーくんと一緒にみんなで考えてみようという絵本です。
 
あしだ)すごくわかりやすくまとめていただいて、勉強になりました!
 
西村)我が家には、8歳の男の子と3歳の女の子がいるので、この絵本を一緒に読んだんです。3歳の娘は、災害や備えについてあまりわかっていないのですが、「かわいい!かわいい!」とよろこんでいました。最後は、「わたしも防災リュック作る!プリンセスのお菓子入れたい!」と言っていました。夫とは、「ゴールデンウィークにみんなで防災リュックの中身に入れるものを買いに行こう」という話しに。防災について考える良いきっかけをいただきました。
 
あしだ)こちらこそ、素敵なエピソードをありがとうございます!胸が温かくなりました。
 
西村)大人にとってもすごく勉強になる絵本だと思います。絵がすごく細かく描かれているんです。おふたりはいつもどのように絵本を作っているのですか。担当はあるのですか。
 
あしだ)僕は絵を描かないんです。ござが何でもやりたがるので、ごさのやりたいことを邪魔しない、というのが僕の仕事です。
 
西村)ござさんが全部絵を描いているのですか。
 
ござ)絵は全部、私が描いています。
 
西村)絵がとても細かくて、かわいらしいですね。絵本の中に、防災の備蓄品を備えている倉庫が出てきます。まーくんが、「お水OK」「お米OK」「トイレOK」とお父さんの真似をするシーンもあります。そこには、クッキーや缶詰に入ったビスケットも描かれていて。子どもがすぐそれに気づきました(笑)。
 
ござ)うれしいです!
 
西村)ペロのご飯や簡易トイレもありましたね。災害時に持ち出す非常用リュックの中身で、細かいなと思ったのは、1万円札ではなく、千円札と小銭をジップロックに入れているところ。薬もちゃんとゴムで留めてあり、乾電池もさまざまな種類が描かれています。
 
あしだ)細かいところまで見ていただきありがとうございます。
 
西村)あしださんは、この絵本を書く前に防災に関わった経験はありますか。
 
あしだ)前職は、福祉の仕事をしていて、避難訓練の担当を長い期間やっていたので、少し防災の勉強をしたことがあります。
 
西村)そのときに勉強したことがこの絵本に活かされているのですか。
 
あしだ)いいえ。あまり防災の知識を入れたくないという思いがありました。堅苦しくない絵本にしたかったので。
 
西村)だからこそ、すごくわかりやすい絵本になったのかもしれません。ござさんは、防災の勉強したことはありますか。
 
ござ)一般的な知識しかありません。防災バッグを作ったことがあるぐらいですが、この絵本を作ることで防災の意識が変わりました。
 
あしだ)防災知識のある編集者にサポートしてもらいながら、僕たちはワイワイと楽しく作らせてもらいました。
 
西村)その楽しさが絵本に溢れています。先日、友達家族とピクニックでこの絵本を読んだのですが、大人もみんな「楽しかった!」と言っていました。楽しいだけではなく、絵が細く書かれているから、「防災の勉強になった」という声も。この絵本は、楽しみながら防災を学ぶきっかけになると思います。あんまり知識を入れすぎないように意識したとのことですが、苦労したこと、こだわったことはありますか。
 
ござ)苦労したことではないのですが...普段、わたしたちは、絵本ではなくアニメーションを作ることが多いんです。アニメーションは、1枚の絵が0.01秒ぐらいで過ぎてしまう。絵本は、1枚の絵をじっくり見てもらえる。「1枚の絵にこんなに時間をかけても良いの!?」とすごくうれしくて。
 
あしだ)ずっとお絵描きしている子どもみたいな感じでした。
 
西村)ジップロックの中のお金のように、本当に細かくいろいろなものが描かれています。情報量がすごく多いのですが、読んでいて疲れない。防災バッグの中に入れる備蓄品リストは、よく文字で目にしますが絵で見るとわかりやすいですね。
 
あしだ)防災チェックリストを見ると、知らないのに知っているようなつもりになってしまう。主人公が作りたいバックの中身を描けたら、一緒に楽しく準備ができると思いました。
 
西村)番外編ということで、本の後半にはまーくんの防災バッグが大公開されています。お父さんがまーくんに「自分の大切なものを入れたらいいよ」と言うシーンがあって、まーくんが考えて入れるのですが、そこにラジオが入っていてうれしかったです。ほかには、懐中電灯、予備の電池、オレンジ味のグミ...。お菓子は、チョコチップクッキー、ラムネなど「いつも食べているもの、好きなものがあるとほっとする」とまーくん。これは大人も一緒ですね。
 
あしだ)子どもは、遊び道具があると不安が消えると思います。普段遊んでいるものが入ったらほっとするし、ゲームやトランプなら、誰かと一緒に楽しい時間を過ごすこともできます。
 
西村)ペロの防災バッグも描かれていて。ペットの防災についても描かれていますね。
 
あしだ)チームで作っていく中で、ペットの話が出てきたので急遽、ペット防災に関する内容を入れました。
 
西村)この絵本を通じて、どんなことを伝えたいですか。
 
あしだ)この絵本を読んで、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、友達と防災について話すきっかけになったらうれしいです。
 
西村)ござさんは、いかがですか。
 
ござ)細かく描いているので、コミュニケーションの観点でも、この絵本を宝探しみたいに楽しんでもらえたらうれしいです。
 
西村)読めば読むほどヒントを得られる絵本です。この絵本は、企画展でも見ることができるそうですね。
 
あしだ)「人と防災未来センター」西館で、6月30日まで、この絵本の企画展が開催されています。絵本のパネルや絵本の中に出てきた防災グッズが展示されているので、ぜひ遊びに来てください。主人公のパネルと一緒に写真を撮ることもできます。
 
西村)みなさんぜひ足を運んでみてください。
きょうは、「ぼうさいバッグのちいさなポケット」の作者で、絵本アニメクリエイターtwotwotwo(ににに)のあしださんとござさんにお話を伺いました。