2024年

5月26日

イングリッシュガーデンを超えた⁉︎ 日本の園芸

先週に引き続き、ゲストは株式会社陽春園植物場 代表取締役社長 野里元哉さん
創業の頃からのお話を伺っていきましょう。
「曽祖父の代の話ですが、宝塚の山本という所は植木生産の町なんです。
たくさんの植木を生産する方、造園業者の方もいらっしゃいました。
祖父は現在のように店でお花を売るという商売ではなくて植木を生産する商売をしていました。
その頃はまだ主な物流手段が鉄道だったので、鉄道を使って山本という町自体が全国に向けて出荷していたそうです。
当時はものすごく景気が良かったと聞いています。
そこから町自体が、植物の通信販売を始めてそれが大当たり。
当時、牡丹を生産してる人が多くて、それを全国に出荷していたそうです。
小売に転換したっていうのは、先代の私の父親の代になります」。

代々、山本の地で受け継がれてきたわけですね。
「父親は大学を卒業してから、しばらくの間、渡米して色々と経験を積んでいたそうです。
その頃の日本にはまだお花とか植物などに値札をつけて店頭で売るという文化がなかったそうなんですよ。
その頃は、いわゆるDIYに便利なホームセンターみたいなものも日本になかった。
アメリカでは植物をお店で買って、自分で穴を掘って、そして庭を作る。
アメリカにあったこういった概念自体が日本になかったそうなんです。
父は自分で植物を買って育てるということが面白いっていうことで、帰国後、その店舗をやってみようと。
それまでやっていた通信販売をやめて、今の業態に変化しました。
50年ぐらい前になりますね」。

植物といえばガーデニングブームもありました。
「私が仕事を始めたばかりの頃から比べると、明らかにお客様がお庭に求めることが変わってきていると思います。
住宅事情もありますが、昔ほど"たくさん植木を家に"という声はなくなってきましたね。
植木よりは車を置きたいというニーズが多い。
昔は一家に車1台だったところが奥様の車も併せて2台。
その中でもガーデニングが好きな方っていうのはやっぱりいらっしゃいます。
昔の日本庭園というものは100%完成品なんですよね。
植木職人が端から端まで手をかけてビシッとする。
それを作ってしまうと手入れはプロしか触れないですから。
そうではなくて植物を育てるのがお好きなお客様の庭だったら、80〜70%ぐらいの完成度にして、あとはご自分の手で...と相談していきながら作るスタイルに変わっています。
あのガーデニングブームは90年代中盤ぐらいですかね。
イングリッシュガーデンに憧れた方が多かったです」。

空前のガーデニングブームでしたよね。
「父親は渡米して修行していた時期があるんですけども、私も大学を卒業してから2年間ほど京都の造園屋さんで修業させていただいて。
その後、アイルランドへ1人で渡ったことがありました。
その頃がまさに日本でイングリッシュガーデンの大ブーム。
アイルランドにも有名な庭園がいくつかありまして、見て回ったり、現地の園芸店でアルバイトをしたり。
本場のものはやっぱりダイナミックで圧倒されましたね。
雑誌のグラビアやカレンダーになるようなイングリッシュガーデンって本当に綺麗なんです。
帰国してお店で働き始めたのですが、向こうで見たイングリッシュガーデンと日本のものとは違いましたね。
同じものは日本じゃ無理だなと思いました。
すごく手が掛かりますし、ごく自然に見せているんです。
この見せ方に手がかかる。
イギリスの富裕層の富の象徴と言いますか。
一番綺麗な時に一番綺麗な状態になるように、1年間かけてデザインして、何を植えるのか、何を育てるか、それをいつ咲かせるのか。
ここはこのぐらいにカットして...など全部計算して咲かせるんです。
それはそれですごく素晴らしいんですけど、日本の住宅事情から考えると難しいものがあると思います」。

そこから陽春園でお仕事を。
「20代の時にイギリスやアイルランド、ヨーロッパで庭を見させていただく機会があって。
それから実家に帰ってきて陽春園へ。
仕事をして10年ぐらいたって、改めてイギリスに行く機会があったんです。
イングリッシュガーデンを観に行ったのですが、実は前ほど感動しなかった自分がいまして...。
なぜかと考えました。
日本のガーデニングのトレンドっていうのは、庭でお花を育てる文化もありますが、コンテナガーデンという寄せ植えの文化なんです。
1つの植木鉢に、何種類かの草花をアレンジして植えて一緒に咲かせて楽しむ。
本場のようなイングリッシュガーデンではないですが、日本で独自の進化を遂げていたんです。
日本人はちっちゃい器の中にイングリッシュガーデンを作れるようになったと気づいたんですよ。
日本独自の文化として進化して、イギリスに憧れていたものとは違うものを確立したと思いました。
この業界は大きい1発でトレンドが変わってしまうようなホームランっていうのは、中々、無い業界なんですよ。
90年代のガーデニングブームっていうのはものすごく大きかったですね」。

これからのトレンドの変化というのは?
「私が子どもの頃に遊びに行ってた頃の陽春園は草花をたくさん売ってませんでした。
それがだんだんと時代のニーズに合わせて、植木売り場が少しずつ小さくなって、草花が増えてきた。
今ではもう売り上げの大半がガーデニング用の草花です。
これがこの先30〜40年もそうなのかな、と。
正解っていうのは正直わからないですけど、お客さんの小さなニーズでも細かく汲み取って、それに合わせてお店の形を変えていって、小さい進化をし続けないと残れないと思っています」。

老舗の進化は続く。

竹原編集長のひとこと

老舗ならではの粘り強さ、お客さんとの向き合い方、そして小さな声もしっかり聞いて応えていく。
さらに植物の声も聞く。100年企業の技ですね。