2023年

10月22日

先代社長である父から言われたかったこと

先週に引き続き、ゲストは株式会社高浄の代表取締役 長井正樹さんです。
今週は改めて会社の歴史を伺っていきましょう。
「55年目になります。
昭和44年に私の祖父の長井正信が60歳を超えて創業しました。
それまでは行政の仕事をしていました。
地域の仕事をしていく中で、下水処理場などの仕事を民間に委託する時に仲間の人と維持管理する仕事を立ち上げました。 祖父は私の父が33歳の頃に亡くなってしまいまして、そこから父が継ぎました。
当時は高度経済成長期。
ビルが多く立ち並んだ時代でもありまして、そこから父がビルメンテナンスの仕事を始めることになります」。

2代目のお父様はどんな方だったのでしょうか?
「父はめちゃくちゃ厳しい人でほとんど家にいない。
父のことが好きではなく、この家を早く出て行きたいという思いが芽生えてきます。
そこから私は大学を卒業し、東京の会社に就職しました。
今とは全く関係ない業種でしたね」。

それが家に帰ってくることに。
「1年ぐらい経った時に父から毎週のように葉書や手紙が届くことになったんです。
愛情が深い人だったんですが、その表現の仕方が厳しさだったり。
でも元々筆豆だった人なんです。
内容は阪神タイガースの成績だとか母親の話だとか他愛もない話だったんです。
当時、糖尿病で体が大変だったのは知っていました。
そんな中、書いてくれた手紙の行間から寂しさを感じてしまったんです。
手紙には"跡を継いでくれ"など一言も書いてませんし、正月に実家に帰った時にそんなことは話さない。
手紙を読んで、もうひとつ思ったことがありました。
それは"この弱っている父親になら勝てるかも"と思ったんです。
どうせ人生1回きり、今、勝負するなら親父を超えることができるかも...。
そう思って両親に仕事に挑戦させてもらえませんかと私の方から頭を下げました。
父は死ぬ間際まで"お前が継ぎたいと言ってきたんやぞ"と云ってましたけど(笑)。
母親に聞いたら、めちゃくちゃ喜んでいたそうですけどね。
私が27、8歳の時でしたね」。

実際に入社してみていかがでした?
「帰ってきたら毎日2人でイライラしているという(笑)。
仕事、親子関係、私は何かしら否定されている感じがしていました。
当時、父は体の調子が良くありませんでした。
そんな時に父が"俺は辞める"と云い出しました。
父は"俺も親父から急に引き継いだからお前もできるやろ"
"退職金1億5000万円くれ、それで生きていく"と。
会社を潰すも潰さないも好きにしろといった感じでした。
実際にそれだけの退職金を出せるお金が会社にあったかというとありません。
毎日、ケンカしているような間柄でしたから早く出て行ってくれという気持ちもありました。
その時5000万円に、まけてくれといえば良かったのですが(笑)。
結局、金融機関に支援していただいて10年かけて支払いました。
嬉しかったのは10年かけて返済し終わった後に食事に誘ってくれたこと。
私と妻と子ども、そして母。
退職金の話が出た当初、母は可愛い息子に何をさすねんとすごく怒っていましたし、周りの人からもかなりの意見があったそうです。
父が亡くなった時、資産の相続の時も私の兄弟から何ひとつ文句はなかったです。
"兄貴はそれだけの借金を背負って返済したんや、会社を継ぐのは兄貴がいい"と。」。

10年間、強い思いで仕事に邁進。
先代社長との関係はどのように変化していったのでしょう。
「親父が、がんで余命宣告をされました。
半年でした。
ある抗がん剤があって効くかどうかわからない。
きつい副作用があるが延命できるかもしれない...。
あとは何もしない...どうしようか、そんな相談をされました。
そこで私は"半年、俺が面倒見るから好きに生きてくれ"と伝えました。
父はずっと泣いていましたね。
そこからは旅をしたり。
社長と後継者でケンカしていたけれど、やっぱり親子やなぁと思いましたね。
過ごしていく中で親子の絆を感じていました。
自分が親に勝とうとしているから見えていなかったものがありました。
半年の余命の間に一緒に過ごしていると厳しさが愛情だったりすることが見えてきました。
逆に今まで僕の方が見えていなかったですね。
そして、父と和解しました。
余命からまだ少し生きていましたが、本当に応援してくれているんだなぁと感じてから送ることができました。
愛情の表現の仕方が親も息子も違うんだなぁとも思いましたね。
中小企業の後継者問題は親子の戦いがあるとは思いますが、お互いに素直な気持ちを出すのが下手だし、勝ち負けにこだわったり。
でも根っこは息子思いのただの父親なんですよね」。

父子の関係がスムーズに。
そして本当の意味での事業承継。
「余命宣告をされて入院している時に、父の時代からいた社員が病室を見舞ってくれたんです。
お見舞いの後、父が私を呼びました。
"お前、ようやってるな。あの社員を見てたらわかるわ" 。
褒めてくれたんです。
私は父にこれを言われたかったんです」。

長井社長は本を出版されています。
『先代を超える「2代目社長」の101のルール』。
「こういった事業承継で悩んでいる方の力になれたらと思って書かせていただきました」。

生きがいの連鎖を全ての人に。
自分たちらしさを大切に。
親子間の事業承継から伝わります。

竹原編集長のひとこと

幸せ感の持続。これに近いことを以前から当たり前のように取り組んでいらっしゃいます。
これからも幸せを作り続けてください!