2023年

3月 5日

未来に届ける木管は人と人との対話 

4週にわたって2025年、大阪・関西万博特集です。
大阪・関西万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。
このテーマを表現する8人のプロデューサーが8つの事業を展開します。
今週はその8つの事業の中から「いのちを守る」のプロデューサー、映画作家の河瀨直美さんをお迎えします。

「"『いのちを守る』が河瀨さんのテーマです"と聞かされた時に守る...めちゃめちゃ難しいじゃないですか。
コロナがあって、世界に開かれる万博でいい加減なことが言えない。
一生懸命考えている中、朝起きて芽生えた思いがありました。
守るということは危険があるということ。
では、守らなくていい状況は?
自然の脅威、病、ウイルスなどありますけれど、実は人が怖くない...?
戦争は人が起こしているよね。
人が人を殺めたり、争ったり、なぜ分断は生まれるのか。
それは相手を理解していないことから始まるんじゃないかなと思いました。
その理解できていない部分をどうしたらいいのかというと、"私の中にあなたを存在させればいい"と思ったんです。
あなたと私って同じじゃないの?
"どうしたん?"と訊く、対話することが大事じゃないかと思ったんです」。

相手の立場で考える、それも対話のひとつ。
「ビジネス、経済の中で活躍する人はなぜ働いているのか。
私利私欲で働く人はいずれ終わると思うんです。
私の生まれ育った奈良の根本的な思想にあるんです。
それは大仏さん。
大仏さんってどなたが作ったかご存知ですか?
今から1300年ほど前に聖武天皇が詔(みことのり)を出されるんです。
当時、天然痘で国民が倒れていく中、大仏を作ろうと仰るんです。
聖武天皇は権力があって作ろうと思えば作ることができる。
でもこの大仏はみんなで作ろう、と。
ひと握りの砂、枝でいいから持ち寄って作ろう。
一人の権力者が作ったものは別の権力者が生まれた時に潰されるんです。
これまでも奈良の建造物などは失われても再建するんですよ。
なぜかというとみんなの力で造ったからなんです。
私たちの世代だけじゃなくてもっと先の七代ぐらい先の世代に伝えたいものを作らなければいけないと思います。
地域に還元しよう、大阪が頑張ったら日本が元気に、日本が元気になったら世界に...。
地球という同じ船に乗っている人類の考え方になればと思うんです。
私たち事業プロデューサーは"いのち"のことを考えています。」。

具体的にパビリオンはどのように?
「まずはどこにパビリオンが建つの?って(笑)
夢洲ってどこにあるの?って。
まだ整地もされていないところに行きました。
そこで感じたことは"ここは空が広いな"と。
実際に海はどこ?
その場所に行くと海が見えないんですよね。
高台に行くと海が見える。
この地球には人間以外のものが生きていて、それを人間がコントロールできると思いがちで。
だから簡単に森を壊したり道をつけたり。
それによって自然の脅威も人類に降りかかっています。
万博の会場ではSDGsを伝えなければいけないんです。

会場に一緒に行ったのが、万博のシンボルの『大屋根』をデザインされている建築家の藤本壮介さん。
彼と空を見たいよね、森を作りたいよね、という話をしたんです。『いのちを守る』は人間は自然に守られているということ。森の中に私のイメージするものを探しにきてくれるようなパビリオンがいいなと思ったんです。
70年万博では『人類の進歩と調和』がテーマで科学技術を押し出していました。その中で岡本太郎さんの太陽の塔の背中に黒い顔を描きました。
そのまま行けば大変なことになる、調和をしていかなければいけない。そんなメッセージがありました。
この50年、私たちは何をしていましたか?
もしかしたらもっと色んなものを壊していないですか?
人間の心は競争社会の中で否定して分断していじめあっていないですか?方向転換ではなく、進んできた道は否定せずにその先にいい形を出していけないか。
パビリオンの形は森の中に懐かしみのある建物があって、その中で対話できるような空間が作れないかなと思っています
私は映画監督です。
シアターにしなければいけないと思っています。
新しい劇場で映画を見る形。
普通のスクリーンは一方的にストーリーが流れてくる。
だけど観客はスクリーンの向こう側にいる人と直接対話ができるような形、みんなで目撃できるようなシアターを作れないかと思っています」。

河瀨直美監督の映画作品はドキュメンタリーのようでもあります。
「即興的で俳優たちがまるでそこで生きているような演出をします。
パビリオンのスクリーンの向こう側が台本を持っていない。
こちら側の観客代表の人と対話をする...それを目撃する。
普段の人と人との対話でも感動的な場面が生まれています。
日常の中にこそ素晴らしいドラマが隠されていることに気づいて欲しいと思います」。

かなりチャレンジするパビリオンですね。
「私たちのチーム、よく冒険するなぁと思います(笑)。
よう受け入れてくれてるなぁって(笑)。
合格点が担保できるものではないじゃないですか。
人生と同じです。
ささやかな感情の機微を捉えるようになりたいです」。

現在、プロジェクトはどんな動きですか?
「話者の登録を始めていこうと思っています。
プランニング中ですが、ここに出たい人を募集しようと思っています。
パビリオンは対話シアター、エントランス、離れシアターの3棟あります。
本シアターを出たら森から続く中庭、私たちは"里山"と呼んでいるんですが、そこに入ってもらって離れで見たり聞いたりしたことをアウトプットしてほしいんです。
それをアーカイブすることで人々がどんな心の動きをしたのか、未来に対してその対話がどんなメッセージになっているのか。
万博開場からのメッセージだと思うんです。
平城京を掘ったら木管が出てきて文字が書かれています。
木に墨で書いた木管が1000年も残っているわけじゃないですか。
2025年の木管、未来に届ける木管ができるのではないかと思っています。
企業さんも含めてみんなで一緒に万博を作る仲間を募集しています」。

次週に続く...。

竹原編集長のひとこと

奈良の大仏さんが生まれた経緯、そしてこの度の大阪・関西万博。河瀨さんは人の想いが繋がって行くようなパビリオンをお作りになるのだと思います。