【巻】…19・4292
【歌】…うらうらに照れる春日に雲雀あがり こころ悲しも 一人し思へば
【訳】…うららかに、うららかに照っている春の日。そこにヒバリがあがった。
でも悲しい。ひとりでもの思いに耽っている。
【解】…「春だよ、働こう!田んぼを耕そう」と告げるホトトギス。
朝を告げる、ニワトリ。鳥の声や、蛙、蝉の声、虫の音は、季節の細やかな移ろいや時刻など、時を知らせてくれる重要なものでした。
和歌にあっては、鳥の声は、たとえば植物とセットで「梅に、ウグイス」「卯の花(ウツギ)にホトトギス」など、情景を紡ぎだす音です。
ヒバリの声が表すのは、うららかな春。暖かく穏やかな情景のはずなのに、この歌の主は「悲しい」と言います。なぜ?
情景と心情がマッチするのもいいですが、こういった齟齬・ズレがあるのも歌の面白さです。何が悲しいのかは一切書かれていませんが、想像するに、草木萌え命が輝きを解き放つ春の真っ只中で感じる「憂い」…それは、嬉しさ楽しさの感極まった頂点で、ふと哀しみ寂しさを感じる、日本人独特のナイーヴさ、いわゆる「詫び・寂び」のようなものかもしれません。
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