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秋の夜長とブルーな映画音楽 「クェンティン・タランティーノの映画特集」
現在、若手監督の中で話題になることが多いクェンティン・タランティーノが97年の制作した映画「ジャッキー・ブラウン」の最初と最後に流れるのがこのボビー・ウーマックの「110番交差点 / Across 110th Street」だ。元々これは70年代にアンソニー・クィーンが監督した映画の曲で、タランティーノはサントラの曲をわざと自分の映画のイントロとエンディングに使ったとボクは思っている。恐らくその映画が好きだったのだろう。そして、この映画の主人公ジャッキー・ブラウンを演じるパム・グリアは彼にとって子供の頃からのアイドルだった。何しろ自分の事務所の壁に彼女の昔のポスター貼っていたというくらいだから・・・。 この映画はピストルの売買をしているギャングの現金の運び屋をスチュワーデスであるジャッキー・ブラウンがやらされて、そこから彼女はまっとうな世界へ抜け出すというストーリーだ。 「兄弟が多くて、生きるために悪いことだってやってきた。ずっと落ち込んでそういう世界に生きてきたけど、まともな生き方を見つけたんだ。ゲットーを抜け出す戦いだ。110番交差点ではヒモが女を狙い、ヤク中は売人のドレイ。そして女は抜け目がない。ここにはすべてがある・・・」という歌詞だ。 ゲットーに生まれ、育ったアフリカン・アメリカンにとってはまずその劣悪な環境から抜け出すことが戦いだ。しかし、彼等にとって、抜け出して、まともな道に行く方法はミュージシャンになるか、スポーツ選手になるか、役者になるか・・・とにかく選択肢は限られている。次は主役のパム・グリアが歌う曲で、何年も刑務所に入っている女性のことを歌っている。
ラフなサウンドに乗ってワイルドに歌うグリアは決して上手いとは言えないが、”リズム&ブルーズ”的でボクは好きなテイストだ。彼女は歌をプロとして歌った経験があるのだろうか?もし知っている方がいたら教えて下さい。 タランティーノが自分の映画に選ぶ曲のセンスがボクは好きだが、アフリカン・アメリカンの音楽に対してもかなり見識があるのではと思う。次のミニー・リパートンが70年代に歌ったセクシーな曲などそんなに知られていないと思うのだが・・・。 「あなたは私の中を見ることができるのよ。私の中に入って来ない?私の愛の中に・・・・・・」という詞。ボクなら「うん、いく、いく、・・・」と答えるけど。
そしてタランティーノが選んだ次の曲も隠れた名曲と言うか、最初耳にすると地味に聞こえるけど、詞を理解したり何度か聞くとじわじわと胸に入ってくる素晴らしい曲だ。歌っているのは”Lean on me””Use me”など秀れた曲をヒットさせたビル・ウィザース。 「彼女と歩いている時、すれちがった男がオレをニラんでいた。そしてその時彼女を見るとうつむいたままだった。彼は一体誰なんだ。あいつと何かあったのか・・・・・」 ジェラシーが湧いて、嫌な胸さわぎがするのに彼女に訊けないもどかしさ。通り過ぎたほんの一瞬に男は何もかも察知してしまったのか・・・・・・。
タランティーノが自分のアイドルだったパム・グリアを主演にして、まるで彼女のためのような映画「Jackie Brown」を作った訳を知るためには時間を1970年代初めにもどさなければならない。実は70年代初めから中頃にかけて、黒人キャストによる黒人のための大衆映画がたくさん作られた。そういう映画のことを「ブラックスプロイテーション」と呼ぶそうだ。 ”Black”つまり「黒人」とExploitation「開発、利用」を合わせた造語だそうだ。ほとんどの作品はギャングやドラッグのディーラーをヒーローがやっつけるというシンプルなストーリーで、パム・グリアがその当時出ていた”Coffy / コフィ”という映画を見ると昔日本のTVでやっていた「ザ・ガードマン」や「プレイ・ガール」のような感じがする。低予算で短期間で作られていた映画だけにすべてがチープな感じなのだが、そのチープさが魅力になっている。昔のブルーズのレコードのような、音圧の薄い、細かくリハーサルをしたとは思えない、アレンジというアレンジもない、リズムが合っていないのにテイク3でOKしたような、ブルーズのレコードに似ている。パム・グリアはこの手の映画のトップ女優でアフロ・ヘアでヘソ出しファッション、胸がすごく大きくて体全体がプリプリという音がしそうな感じ。 それを見ていたタランティーノ少年はずっと憧れ続けて成長し、映画監督となった訳だ。しかし、白人なのにこういう映画が好きなタランティーノは白人側からも黒人側からも変な奴に見えたことだろう。では、タランティーノ少年も見たグリア主演の「コフィ」から、この映画のサントラをプロデュースしたロイ・エアーズが歌っている。
「コフィ」は73年の作品でジャック・ヒルという人が監督しているがボクは知らない。当時この映画のポスターにも使われただろうマンガちっくな絵がこのサントラのジャケットになっている。パム・グリアはこの映画と次作「フォクシー・ブラウン」で黒人の若者たちに絶大な人気を博したが、白人の若者たちはもちろん黒人だけの映画館に来るわけはなく、ほとんど白人層ではこういう映画もパム・グリアも知られていなかった。やっぱりタランティーノは変な奴だったんだろう。では、映画「フォクシー・ブラウン」から、ウィリー・ハッチが歌うこの曲。
話をタランティーノに戻すと、70年代のB級ブラック・ムービーに夢中になっていた彼が、1994年に作った「パルプ・フィクション」という映画は大ヒットしたから、観ている人も多いと思うが、この映画のオーディションに実はパム・グリアが参加していた。しかし、彼女が希望していた役は他の女優に回ってしまった。その時にタランティーノが「必ずあなたの映画を作りますから」とグリアに言ってその約束を果たしたのが「ジャッキー・ブラウン」だった。「ジャッキー・ブラウン」にも大物のロバート・デ・ニーロが出演していたが、「パルプ・フィクション」にはジョン・トラボルタ、ブルース・ウィリス、クリストファー・ウォーケン等が出ている。音楽もまた興味深いものが使われている。まずは1973年のディスコ・ソウルの大ヒット。
ボクもこの曲でディスコで踊っていた頃がありました。何かゴツゴツした男っぽい感じがいいです。シャレた感じではなく、肉体でいく感じです。次はチャック・ベリーですが、ロックンロールの王様の彼の曲の中でもこの曲をサントラに使った人はいないと思うのですが、ベリーの中では地味な曲。
さて最後は”メンフィス・ソウルの貴公子”アル・グリーンの大ヒットですが、このブルーズ講座ではアフリカン・アメリカンのものをON AIRしましたが、次の「巷のコーナー」で「パルプ・フィクション」のもうひとつのテイストのものを聴いてもらいます。
タランティーノは黒人やいわゆる有色人種の人たちが住む地域で育ったらしい。彼にとってはそういう多民族の文化と接するのは当たり前のことで、次の「巷のコーナー」でも彼のそういう雑多な感覚がわかる音楽を聴いてみましょう。 |
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